エッセー第十回: 結婚指輪とビックバン

人類が始めて手にした金属は「金」だといわれています。
金は自然の状態でも金属として発見できることがありますが、他の金属はほとんど化合物として存在します。
古代から現在に至るまで「金」を人間は追い求めて様々な物語を生んできました。
「金・きん」は「金・かね」として私たちの生活にかかわってきました。この「金・きん」はどこからきたのでしょうか。このことは科学者の頭を長い間悩ませてきました。とはいっても科学者が頭を悩ませているのは、金のジュエリーやインゴットをどこで買ったかとか、掘り出したということではありません。
科学者は、「金・きん」がどのようにして生成されたのかということに対して頭を悩ませてきたのです。「金・かね」がない私にとってはどうでも良いことではありますが。

 

実はジュエリーとして皆様の身を飾る金とかプラチナといった貴金属がいつ、どこで、作られたのかということが大きななぞなのです。もちろん、金は金鉱山で採掘される鉱石から精製され、さらにジュエリー職人が作るわけですが。いつ、どこでということは135億年の宇宙の歴史の中でという疑問です。
私たちの地球は太陽系の3番目の惑星であり、太陽系は銀河系の渦状腕と呼ばれる端っこにあるといわれています。
さらにこの太陽系が属する銀河と同じようなものが無数に存在するのが、宇宙だそうです。この宇宙は135億年前のビックバンで形成されたといわれています。
ながながと宇宙の話をしてきましたが、ビックバンの時には宇宙は水素ばかりで他の元素は存在していなかった。まして「金・きん」はまったく存在しておりませんでした。

 

ビックバン 水素だけ
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水素が集まって恒星が形成

酸素や炭素などの軽い元素は、恒星の内部で核融合反応により形成

巨星の寿命を終える際の超新星爆発により宇宙にばらまかれる

 

地球を形作るほとんどの元素は、そのようなプロセスを経てきたものですが、金やプラチナなどの重元素については、普通の恒星の内部の温度と圧力では生成できません。
「巨星の寿命を終える際の超新星爆発」では金やプラチナは形成されません。そうすると、地球に存在す金やプラチナはどこで出来たのでしょうか。
中性子星は、超新星爆発の際、恒星の核がつぶれてできる超高密度のコンパクトな天体で、地球の百万倍もの質量を持ちながら、大きさは大都市ほどしかありません。
2つの中性子星が衝突するとブラックホールが生成されるとともに、大量の金やプラチナなどの重元素が生成され、その一部は宇宙空間に投げ出されることがわかりました。
宇宙空間に投げ出された金やプラチナを含む星のかけらが、気が遠くなるような時間と距離を移動して、また集まり地球が生まれました。そして、その金が私たちの身を飾るのです。
貴女の、そして私の結婚指輪の金が、はるかなかなたで星どうしの衝突により生成されたのです。二人を結びつける結婚指輪の金やプラチナが悠久の昔にはるかかなたの中性子星どうしの衝突で生まれたものと考えると、結婚指輪を大事に、もちろん、相手も大事にしないといけません。
ちなみにダイヤモンドは地球内部のマントルの中で形成されました。いづれにしても、宝石と金・プラチナは自然の驚異の産物です。

 

風信子(ヒヤシンス)

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