エッセー第九回: マドンナの宝石(聖母の宝石)

題名に「宝石」とつく音楽はあまり例がありませんが、エルマンノ・ヴォルフ=フェラーリが作曲した【マドンナの宝石】は有名です。どこかで、やさしく美しい旋律を聴いた事がある人が大部分でしょう。この曲は【I gioielli della Madonna】という題名のオペラの第2幕前の第1間奏曲で、エルマンノ・ヴォルフ=フェラーリが作曲した中で現在でも演奏される唯一の曲です。舞台は1900年ごろのスペイン統治下のナポリ。秘密結社の首領ラファエレに恋した奔放な女マリエッラは、義兄ジェンナロに「聖母の像にはめこまれている宝石をとってきたら、貴方のいうことをきく」といって、盗み出させる。ジェンナロはマリエッラを自分のものにしたと思ったのもつかの間、彼女はすぐにラファエレに言いよっていく。しかし彼女はふられてしまう。聖母像の宝石を盗んだことの罪の重さに気づき、それをジェンナロが返している間に、マリエッラは咄嗟に身を投げて死んでしまう。それを知ったジェンナロもナイフを胸に突き立てて死ぬ。(ウキペディアより転載)


さて、このオペラの中に登場する聖母像の宝石は一体どんな宝石だったのでしょう。もちろん、聖母像の宝石のついての記述はありませんので、勝手に想像してみます。聖書に記されている宝石としては次に示すようなものが挙げられています:

 

ラピス・ラズリ

縞めのう

ルビーあるいは紅玉髄

緑玉あるいはエメラルド

ガーネット、トパーズ

サファイア

 

しかし、実際には現代の宝石の分類を適用するのは非常に困難で、ここに挙げる宝石名はかなり無理やり当てはめたと考えられます。
さて、聖母像の宝石は何だったのでしょうか。ルビーやサファイアの当時の産地はセイロン(今のスリランカ)ですので、イスラエルまでは到達していないでしょう。イスラエル近郊で産出した宝石はラピス・ラズリ、縞めのう、ガーネット、そしてクレオパトラも身に付けていたと伝えられるエメラルド。聖母像の宝石はやはり緑に輝くエメラルドではないかと想像をたくましくします。現代のエメラルド産地はコロンビア、ブラジル、タンザニア、パキスタン等が挙げられますがもちろん、聖書が記された時代のイスラエル周辺のエメラルド産地はエジプトがあり、クレオパトラもエジプト産のエメラルドを身に付けていたと伝えられています。

エルマンノ・ヴォルフ=フェラーリが作曲した【マドンナの宝石】は、舞台が1900年ごろのスペイン統治下のナポリですので、ジェンナロが盗み出した聖母像の宝石はエメラルドではなかったかも知れません。

話は変わりますが、戦後ハリウッドを代表する女優で今年3月に亡くなったエリザベス・テーラーの宝石コレクションが米国のオークションに出されることになりました。そのうち約50点を紹介する内覧会(プレビュー)が9月29日、東京都内のホテルで行われました。私もエリザベス・テーラーの宝石コレクションを目にする機会を得ました。
会場の数あるエリザベス・テーラーの宝石コレクションで一際目を引いたのが、エメラルドのネックレスでした。まさに「マドンナの宝石」と呼ぶべきすばらしいジュエリーでした。私も長い間宝石に携わってきましたが、超逸品のエメラルドでした。これを見て、今回の拙文の【マドンナの宝石】はエメラルドに違いないと意を強くしました。エリザベス・テーラー宝石コレクションのオークションは12月、ニューヨークのクリスティーズで行われるそうです。驚異的な価格で落札されることでしょう。

 

風信子(ヒヤシンス)

 

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