エッセー第十五回:真珠貝が作った宝石 真珠

今回は、真珠のあれこれを書きました。
 

真珠は優しい光としっとりした美しさで、洋の東西を問わず、古来珍重されてきました。

日本は古から真珠が取れていたようで、万葉集や古事記などにも記載されております。

白玉は 緒絶(おだ)えしにきと 聞きしゆゑに

その緒また貫(ぬ)き 我(わ)が玉にせむ

憧れていた女性が結婚したが、風の便りに別れたと聞き、再び女性に求婚する様を歌に詠んだものです。

真珠のネックレスの糸(緒)が切れたと風の便りに聞きました。憧れの女性の首を飾る真珠に新しく糸を通し(その緒また貫き)、私の玉にしたい。切ない男の心情が切々と歌われております。草食系の男は万葉の昔からいたのですね。
 
6月の誕生石は真珠、その石言葉は「長寿、健康、富」。「月の雫」「人魚の涙」という美しい言葉も真珠の別名です。



真珠を作る貝・真珠貝:

真珠を作る真珠貝は海や川に住んでいます。

海の真珠貝としては、

あこや貝-あこや真珠(図-1)

主な産地は日本、直径が11ミリ以下のしっとりとした真珠が生まれる。

白蝶貝-白蝶真珠または南洋玉と呼ばれる。オースロラリアやミャンマーが産地。

南の海の真珠貝で大粒の真珠が作られる。白色、ゴールデン色

黒蝶貝-黒蝶真珠(図-2)

黒色の色調の中に孔雀の羽根の緑色が浮かんでくる不思議な色調の真珠。

日本の石垣島やタヒチなどで作られている。

まべ貝-まべ真珠と呼ばれ、半円かスリークォーターと呼ばれる3/4が真珠。

形は球ではないが、きめ細かい肌を持った真珠(図-3)。

 

あわび貝 あわび真珠:

鮑貝の内側のやや黒味を帯びた青色の真珠が作られます。三陸海岸で食べ

ると非常に美味しい「えぞあわび」から作られる。

 

湖沼の真珠貝:

淡水真珠 イケチョウ貝と呼ばれる貝が真珠を作ります。私が子供のころには田の

用水路等に大きなイケチョウ貝が生息していました。日本の琵琶湖や霞ケ浦でこの貝を用いて真珠を作っておりましたが、現在は中国が主な産地です。

昔、琵琶湖で作られていた淡水真珠はきめが細かく非常に光沢が強いカラフルな真珠が作られていました。図-4

 

真珠の構造:

真珠というと「弱い」というイメージが強いのですが、真珠本来は非常に丈夫な宝石です。

図-5を見てください。真珠の断面構造です。アラゴナイトと呼ばれる炭酸カルシウムの結晶がちょうど煉瓦のように並んでおります。このアラゴナイトを結び付ける漆喰の役割をしているのが「コンキオリン」と呼ばれるたんぱく質です。

真珠はアラゴナイトという薄い結晶がたんぱく質のコンキオリンで接着されて多数積み重なった構造をしているのです。この層が数千枚重なって真珠層が作られているのです。

この構造の結果、真珠独特のしっとりした美しさと光沢が生まれ、丈夫な構造となるのです。このような構造の結果、真珠の表面は図-6に示すような「指紋に似た」模様をもったものになります。

 

ハマグリで真珠ができるか:

よくハマグリやアサリを食べていて真珠が出たというような話を聞くことがありますが、本当でしょうか。ハマグリやアサリからでる「真珠様の固形物」と「真珠貝が作る真珠」とは全く別物です。図-4の真珠層の模式図を見てください。貝の外套膜から分泌されるアラゴナイトがれんが状に積み重なって成長したものが真珠です。

これに対してハマグリやアサリからでる真珠様の固形物はアラゴナイトが縦に成長していきます。この場合は真珠層を通過するときに「光の干渉」が生じないために、あの美しい真珠の光や光沢が出ません。

ハマグリやアサリからでる真珠様の固形物は真珠とは呼べないものです。ハマグリやアサリの貝の内側は白いアラゴナイトの層でできており、この層が丸くなったのが真珠様の固形物です。言い換えると貝殻の成分が丸くなったものです。

 

コンクパール:

アラゴナイトが水平に積み重なったのが真珠、アラゴナイトが縦に伸びたのは真珠ではないということになります。物事には例外があります。アラゴナイトが縦に伸びた貝生成物が「真珠」と分類されているものがあります。

西インド諸島のカリブ海に生息するピンク貝から産する「真珠様の固形物」は珊瑚のようなピンク色で炎のようなフレーム・火焔模様が見られるのが特徴です。図-7

このピンク貝の生成物だけは構造は真珠ではないが、あまりにも美しいので真珠に分類されております。

ハマグリの貝もピンク貝と同じアラゴナイトの配列(交差板構造)をしていれば、焼き蛤で食べられるというような事にはならなかったかも。

 

 

花珠鑑別書:

テレビ通販などで「花珠鑑別書」付き真珠ネックレスが販売されております。まあお安いことなどと合いの手を挟みながら商品説明をしております。

花珠とは、元来、水揚げされた真珠の中の極僅かな超特級品の真珠に用いられる真珠業界の呼称だったのです。比較的良質の真珠に「花珠」と名付け、「花珠鑑別書」をある真珠鑑別所が始めました。花珠鑑別書の基準はオーソライズされたものではなく、私的な真珠鑑別所の私的な基準に基づいて花珠鑑別書が発行されております。

皆様、真珠をお買いになるときは、花珠鑑別書がついているからというような理由でお買いにならないでください。ご自分の目で確かめてお買いになってください。

 

 

真珠の手入れ:

真珠の美しさを保つためには手入れが大事です。真珠の美しさを損なうものを挙げますと、

汗、化粧品、果汁、湿気、乾燥、太陽光

このような身の周りのほとんどすべてが真珠の美しさを損なう可能性があります。でも大丈夫です。真珠の美しさを保つ秘訣は「使ったら拭く」です。眼鏡拭きの布の内側で使用後に軽く拭くようにしてください。これだけで、相当、美しさを保てます。

次に湿気と乾燥が真珠の敵ですので、密封したケースに保管しましょう。

結露が大敵ですので、冬場は結露がつかないようなところに保管してください。

まとめますと、真珠の美しさを保つためには

・使ったら拭く
・密封したケースに保管(防虫剤などは絶対入れないでください)

0